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謹賀新年2012

2012年01月08日 01:04

例によって遅ればせながらではありますが、
新年明けましておめでとうございます。

年を経るに従って順調に更新速度が落ちて行っておりますが
それでも覗きに来てくださる方がいらっしゃるのは
まことにありがたい事だと思っております。

と、いうわけで。
辰年ですね。

   ×   ×   ×

ほんの少しの緊張と、はるかに大きなワクワク感。
初めて覚えた呪文を使うときの感覚は、
一度味わったら絶対やみつきになると思う。

冒険を始めた頃、私は数日おきに新しい呪文を習得して、
そのたびにマジックポイントが尽きるまで唱えまくっていた。

修練を積めばそれだけ高度な魔法が使えるようになる。
それは良いんだけど、レベルアップの間隔が伸びちゃって、
前みたいにぽんぽん新しい呪文を
覚えていけるわけじゃなくなっちゃったのは
けっこう残念っていうか、寂しいっていうか。

だから、やっぱり嬉しいよね。テンション上がっちゃうよね。
最後に覚えた「マヒャド」から数ヶ月、
頑張ってこつこつ経験値を稼ぎ続けた果てに
ようやくマスターしたこの呪文――。

「ド ラ ゴ ラ ム ッ !」
体中が真っ白に輝いて、同時に心臓が煮えたぎるような感覚。
送り出された血液が行き渡ったぶんだけ、
その熱は全身に広がっていく。
苦しくなんてない。
むしろ、すっごく、気持ち良い!

白く柔らかい肌から、まるで植物みたいに鱗が芽吹く。
溢れ出す熱エネルギーを押さえきれずに、全身が膨張する。
びっくりするほど簡単にはじけてしまった骨や筋肉は、
次の瞬間により太く、たくましく再生を終えている。

そのプロセスを何度も繰り返しながら、
人にはありえない器官――コウモリのような翼が、
蛇のような尾が、ゼロから作り出されていく。

長く伸びた首の先端で顔もまた爬虫類を思わせる形に変わり、
最後にきしむような音をたてて生えた二本の角は、
まだ体液に濡れてつやつやと光っていた。

これらの目もくらむような変化をわずか数秒のうちに終え、
気づけば私は巨大なドラゴンへと姿を変えていた。

ぎろりと睨みつけてやるだけで、
目の前のアンクルホーンたちが気圧されているのが分かる。
次に何をするべきなか、考えるまでもない。
大きく息を吸い込んで、腹の底でまだ
燃えさかっているエネルギーを
思いっ切り、吹き付ける!

激しい炎は敵モンスターに致命的な大ダメージを与え、
戦闘はあっけなく終わってしまった。
なあんだ、もうちょっと楽しみたかったのになあ。
まあいいや、魔力にはまだ余裕があるし、
次のエンカウントでまたやってみよっと。

すう、と身体の熱が収まって、変身が解けていく。
鱗が蒸発するみたいに消えていって、髪が生えそろう。
張りつめていた筋肉はゆっくりと緩んで、
全身のフォルムが丸みを取り戻す。
手足のカギ爪は元通りの平爪に変化して……。

……えーと、あれ?

そこまで、だった。
変化は途中で収束して、それ以上の動きを見せない。
……お、おかしいな。なんでちゃんと戻らないんだろう。
タイムラグみたいなものがあるのかと思って
もうちょっと待ってみたけど、
やっぱり何も起こる気配はなかった。

ちょっとちょっと、困るんだけど。
自分の身体を見下ろして、そのみっともなさに愕然とする。

dragongirl.jpg

さっきまでの竜の身体に宿っていた猛々しさや機能美は
消え失せて、小さく貧相に縮こまっていた。
いや、「小さく」っていうのは語弊があるかな。
普通の人間よりは断然大きいんだから。
馬車の幌を使ったって全身を覆うことは難しそうだ。
もちろん服なんて問題外。
肌が元に戻ったせいで、さっきまで気にもしなかった
いま自分が「裸」だって事実を、強烈に意識してしまう。
なのに、着るものがないなんて……!

私が顔を赤くしてもじもじしていると、
ようやく異変に気付いたお父さんが声をかけてきた。

「おい、どうした」
「グォ……グォオッ?」

事情を説明しようとして、
初めて声帯はドラゴンのままだってことを知る。

「ウガァ! グアアッ!?」

口の作りも舌の形も元には戻ってなくて、
どう頑張っても言葉を話すことができない。
何度も吠えて、鳴いて、あぶく混じりの涎で
口の周りをいっぱいにした末に、ようやく私はそれを把握した。
自分が自分じゃない姿になっていて、
それをコントロールすることができない。
これってけっこう……心細い、かも。

「お前……もしかして、戻れないのか?」

改めてそう言われると、その深刻さが
ずっしりと心にのしかかってきた。
いつしか目元には大粒の涙が溜まって、ぼろぼろと溢れ出す。
なんで? あたし、何もおかしいことしてないよね?
詠唱の手順も、文言も、間違いはなかったはず。
なのに、こんなことって――明らかに、異常だ。
どうしよう。どうしよう。わかんない。どうしよう。

「大丈夫だよ」

ゆっくりと、でも着実にパニックへ向かいつつあった私の首筋に、
優しく暖かい手の感触。何よりほしかった言葉。
ほとんど無意識に目をやれば、そこにはお父さんの笑顔があった。
心が、ふっと軽くなる。
「伝説の勇者」であるお兄ちゃんの影に隠れて
いまいち目立たないけど、お父さんって凄いんだなあ。
なんだか凄く久々に――下手したら初めてかも――そう思った。

   ×   ×   ×

「あなた」
「うん?」
「何が言いたいのか、よく分からないわ」
「そ、そうかな。えーと、だから要するに」

要するに、原因は不明だってことだ。
お父さんがわざわざルラフェンの街まで行って
呪文の研究をしている専門家の人に聞いてきた話からも、
私を元に戻す方法は見いだせなかった。

「ドラゴラムの呪文は、戦闘が終わることで
 自動的に解けるようになってるはずなんだ」
「ええ、それはさっき聞いたわ」
「それじゃあ、その”戦闘が終わる”ってのは
 どういう状態を指すのか」
「それも聞いたわね。モンスターを倒した時でしょ」
「惜しい。正確には『敵』モンスターだね。
 それを倒せば――、あるいは逃げてもいいけど、
 そうすれば変身は解除されるはずなんだって」

 されるはず、って言われても困る。
 私の心の声を、お母さんが代弁してくれた。

「解除されてないじゃない」
「そう、それが不思議なんだ。
 考えられるとしたら、その『敵』がまだ生きていて、
 なおかつまだ近くに存在し続けるわけでもない限り、
 そういうことは起きるはずないんだって」
「ありえないわ。ついてきたりしたらすぐ分かるもの」
「そうだよね。たしかにうちのパーティーには
 たくさんモンスターがいるけど、
 彼らはもう『敵』じゃないもんな」
「その『敵』ってのはどういう定義になるのかしら」
「うーん、僕らに敵意を抱いているかどうか、かな?」
私たちにまだ敵意を持ってる仲間モンスター
 ……確かに、そんな子いるわけないわよね」
「だろ?」

原因が解明できなければ、
元に戻る方法なんて分かるはずもない。
お手上げだ。
この姿になって数日、事態は最悪の方向に向かっていた。

もし、と思う。
もしこのまま人間に戻れず、旅を続けることになったら?
私はさしずめ、パーティーに加わった
新種のモンスターか何かのように見えることだろう。
そして今や私は戦闘において、完全なお荷物だ。
図体ばっかり大きくいくせに、腕力は非力な少女のまま。
燃え盛るようなエネルギーは消え去って、炎は吐けない。
魔力はたっぷりあるのに、声帯が駄目だから呪文も使えない。

役に立たない魔物はどうなる?
考えたっていいことなんてないのに、もうやめようと思うのに、
想像力が悪い方へ、悪い方へと前進していく。

もし万が一、何かの間違いで、オラクルベリーの
モンスターじいさんの所に連れて行かれたらどうしよう?
まさかとは思うけど、思いたいけど、
あの人達どっか抜けてるんだもの。

あの空間にただよっていた独特の臭いを思い出すだけで、
胸の奥から吐き気がこみ上げてきた。
一匹の魔物として、他のお払い箱モンスターたちと一緒に
あそこで「飼われる」毎日。
誰とも喋れず、餌を出されればそれに群がり、
唯一の楽しみは眠ること。
時に人間だった頃の夢を見て、目を覚ましては絶望する、
そんな毎日が何ヶ月も、何年も、何十年も――。

「ああ、ごめんな」

声をかけられて、初めて私は
自分ががたがた震えていたことに気付いた。
びっしょりと冷や汗をかいている背中を、
お父さんは何のためらいもなく撫でてくれる。

「そりゃ、心配にもなるよな。
 でも、お父さんもお母さんも精一杯頑張るから、な?」

――凄い、と思った。

言っている内容にはちっとも説得力がないのに、
この声を聞くだけで心がほぐれていくのが分かる。
あったかいものが胸の中に広がる。
とても安らかで、どうしようもなく引きつけられる魅力。

親子だから? ううん、違う。
それもあるかもしれないけど、
もっとリアルで力強い――ああ、そうか。

これが、魔物使いの力なんだ。

敵として立ちはだかったスラりんやピエール、
ゴレムスたちが、倒されてなお
この人について行きたいと思った理由。
それが、こんなにもありありと
理解できてしまう私は、もう、とっくに――。

ふっと口元に浮かんだ笑みが
撫でられる気持ちよさからくるものなのか、
あるいは自嘲からくるものなのか、
私自身にもよく分からなかった。

おしまい。

   ×   ×   ×

思ったより長くなっちゃったけど、
新年の挨拶を分割でやるのもあれなので
まとめて載せてしまいましょう。

どうぞ本年もよろしくお願いします。

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コメント

  1. カギヤッコ | URL | /k8K4ErU

    Re: 謹賀新年2012

    遅ればせながら今年もよろしくお願いします。
    ドラゴラムの暴走…なまじ変化呪文だけに一つ間違えると、ですね。
    この場合凍てつく波動とかをぶつけると…と言う手もありますけどこちらサイドではどうなるのか色々気になったり。
    普通に戻れればよし、下手すれば今度は人間に押し込められた龍にもなりそうで。
    この辺りはどうなるかですね…。

  2. greenback | URL | xB9R6Xc2

    Re: 謹賀新年2012

    >カギヤッコさん
    コメントありがとうございます。
    そしてそうかあ、いてつくはどうのことすっかり忘れてました。
    今回の理屈(戦闘が終わらないから戻れない)だと
    普通に解けちゃいそうですね。残念。
    まあ、このパーティーに関して言えば作者同様
    あんまり頭良くないみたいだから気付かないかもしれない。
    ともあれ、今年もよろしくお願いします。

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