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『まほうつかいになりたかった女の子の話』その1

2009年04月21日 01:30

では、前回申し上げたとおり、まずは第1話を。
涙目王女とかと違ってそんなに長い話ではないので、
お気軽にお付き合いいただければ幸いです。

※オリジナルキャラクターを使いつつ、
一応DQネタになっております。
知らなくても差し支えなく読めるように書くつもりではありますが、
多少の固有名詞はご容赦ください。

   ×   ×   ×

――魔法が使えるようになりたい。
それは無邪気な、少女の夢でした。
魔物を倒したいとか、仲間を助けたいとか、
まして世界を救いたいとか、そんな大仰なことではなく、
純粋な子供の夢。

旅の魔法使いにたった一度見せてもらったことのある、
人智を超えた不思議な力。
すごく綺麗で、かっこよくて。
それは田舎の村に住む、ちょっと背伸びをしたい年頃の女の子
――ジルの心を捉えるのに、
充分すぎるほどの魅力を持っていました。

でも、それはただの、一時の夢。

彼女の村には、魔法を使える大人など住んではいません。
冒険者になって村を出れば、あるいはそれを学ぶ機会も
あるのかもしれませんが、そんなことを冗談でも口にすれば、
両親から長い長いお説教をもらってしまうことも目に見えています。
下手をすれば、ご飯を抜かれてしまうことだって考えられます。
もちろん、ジルにだって
本気でそんなリスクを犯すような心がまえはありません。

だから、これは、夢。
子供が胸に描く、無邪気で他愛のない、
夢のまた夢に過ぎなかったのです。

――そう、その話を聞くまでは。

「嘘だあ」
「嘘じゃないもん!」

晴れ渡る初夏の空のもと、いつもの村はずれの原っぱで、
ジルと言い争っているのは彼女の弟・ケチャでした。

「どこでよ」
「だから、西の森の奥だってば! あの古井戸のあたり」
「西の森には人なんか住んでないでしょ」
「いたんだもん! 本当だもん! これが証拠だもん!」

そう言って、ケチャはひざ小僧をつき出します。
半ズボンから伸びる彼の右足は……どう見ても、ただの右足。
かわった所は何もないのですが……

「これ、昨日の朝転んですりむいたんだもん!
姉ちゃんだって覚えてるだろ? 家のすぐ前だったんだから」
「ああ、あんた大声で泣くもんだからうるさかったわね……
え、あれ?」
「ほら」

たしかに、妙でした。
そのときの傷が、どこにもありません。
いくら子供は自然治癒力が高いと言っても、
昨日の今日ですりむき傷が跡形もなく完治、というのは
ちょっと考えられないことです。

「どうしたの」
「だから、西の森の魔法使いに治してもらったの!
さっきから言ってるだろ」
「うーん……」

にわかには信じがたいことでしたが、
でも、ケチャの傷が治っているのは事実。
つるりとした膝小僧からは薬草独特の匂いもしませんし、
ホイミなどの回復魔法が施されたと考えるのが
自然といえば自然です。

「とにかく、本当だったらちゃんとお礼を言いに行かなくちゃね」
「俺、ちゃんとありがとうって言ったぜ」
「ばか、姉としてきちんとごあいさつしなきゃいけないの!
まったくこれだから子供は……」
「姉ちゃんだって子供じゃないか」
「あんたよりは大人です」

ケチャは言い返す言葉を失って、ぷうと頬を膨らませました。


西の森といえば、村の子供たちにとって
「行ってはいけないところ」の代名詞のような場所でした。
「魔物が出る」
「人さらいが来る」
「呪いがかかる」
などなど、各家庭で多少のバリエーションの違いはありましたが、
共通しているポイントは
「西の森に行くと、良くないことが起こる」ということ。
要するに自分たちの目の届かない
危険な場所に行ってくれるなという大人たちの懸念が作り出した、
どこの村にでもあるタブーのひとつなのでした。

とはいえ、禁止事項は破るためにあるようなもの。
遊び盛りの子供たちにとってはなおのことです。
実際、ジルくらいの歳の子供で
一度も古井戸に行ったことのない子供など、
村にはほとんどいませんでした。

大人の目を盗んでの、ちょっとした冒険。
たいていは何も起こらず、拍子抜けして帰ってくるだけ。
野良犬に追い回される程度のことがあれば「事件」になる、
そんな微笑ましい子供のお遊びにすぎません。

だから、ジルは今回もそんなに大した気負いはなく……
ただ、ほんの少しだけ、ケチャの傷が癒えたという
小さな謎がもたらす、ごくごくわずかな期待を胸に、
西の森へと足を踏み入れたのでした。

「とりあえず古井戸についたけど
……どこで出会ったって言ったっけ」
「だから、このへんだよ」
「いないじゃない」
「そりゃそうだよ! おとといのことだもん。
3日もボーっと同じ所に突っ立ってたりしないよ!
ミヤん家の婆ちゃんじゃないんだから」

ジルたちの幼馴染、ミヤの家には
村で最高齢を誇る婆さまが住んでいます。
いつでも軒先に座って微動だにしないその姿は、
十年以上前から村の風景の一部として定着していましたが……
今はあんまり関係ありません。

「余計なこと言わなくていいの。
それじゃ、どこ行っちゃったのよ」
「分かんないよ。なんかあっちの方」
「あっち?」

ケチャの指し示した先には、
ひときわ深い闇をたたえる森が広がっていました。
ここから先は、ジルにとっても本当に未知の世界。
唾を飲み込むごくりという音が、やけに大きく感じられました。


得体の知れない獣の声。
見たことも無いような巨木。
毒々しい色をしたキノコたち。
初めて目にする、本格的な森の奥の景色は、
幼い姉弟をひるませるには充分なものでした。
しかしジルには年上としてのプライドが、
そしてケチャにも言い出した意地があります。

「か……帰りたい?」
「あ、あたしは別に平気だよ? あんたこそ」
「おおおおれだって余裕だよ、これくらい」

ひとりきりなら、とっくに村に逃げ帰っていたはず。
でも、2人だから。
どちらともなくムキになる子供らしい感性が、
ふたりを“そこ”まで導いてしまいました。

「うわあ……」

薄暗い森の奥に、ぽっかりと広がる小さな広場。
その中央に、かわいらしい小屋がぽつんと建っていました。
素朴なのにどこか幻想的な雰囲気をたたえるその様子は、
心細さで今にも折れそうだったジルたちの心を
すっかり魅了してしまいました。

「……ごめんくださーい」

ノックをして、返事が無くて。
それでも「帰る」なんて選択肢が、いまの彼らに浮かぶはずもなく。
おずおずと小屋のドアノブに手を掛けます。
頭のどこかで予想していた通り、鍵などかかってはいなくて――
ふわりと流れ出てくるエキゾチックなお香の匂いが、
彼らを迎えてくれました。

「……留守、なのかな」

けして広くはない小屋の中に、人の気配はありません。
しかし、どこか温かく優しい空気が満ちていて……
少なくともジルには、
その空間が彼らの来訪を歓迎しているように思えたのです。
そして。

「あ」

壁に掛けられた『それ』に、ジルの目は釘付けになりました。

   ×   ×   ×

2話へ続く

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コメント

  1. 現在楽識 | URL | -

    Re: 『まほうつかいになりたかった女の子の話』その1

    お、始まりましたかw

    さてさて、どんな目にあうのでしょうかw

    魔法使いになりたいというのなら……どれなのかw

    結末を楽しみしてますw

  2. greenback | URL | xB9R6Xc2

    Re: 『まほうつかいになりたかった女の子の話』その1

    >楽識さん
    レス遅くなってすみません。

    「どれなのか」って目線で見たら、2話目でばれるかもしれませんねw
    ご期待に沿えるかどうか分かりませんが、
    続きも読んでやっていただけると幸いです。

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