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『涙目王女』 その1

2008年10月12日 00:11

むかしむかし、大陸の南端にシュレアルという小さな国があって、
そこにはきれいなお姫様が住んでいました。
彼女の名はリヴェラ姫。
優しい両親とたくさんの召使いの愛情に恵まれ、
華やかなドレスに、輝かしい宝石の数々に囲まれて
何ひとつ不自由なく育ってきたお姫様です。
その天真爛漫な笑顔は、
城下はもとより国中から親しまれていました。

いちだんと美しい青空の広がる初夏の昼下がり、
邪悪な存在が世界を脅かしていることなど
忘れてしまいそうになるほどに平和で牧歌的な時間の中、
彼女の心を満たしていたものは――

「はぁ、ヒマねぇ……」

――そう、『退屈』でした。
たしかに伝説の勇者が魔王を倒そうと旅立ってからというもの、
この国には大きな事件も無く、
ましてお城の中から外に出ることの滅多にない姫が
時間を持て余すのは無理もないかもしれません。

「あーあ、なにか面白いことないのかな……」

豪奢な調度品に彩られた自分の部屋でそうひとりごちて、
大きな大きなベッドにドレス姿のままひっくり返ってしまいました。
そのまま眠り込んでしまいそうになった時のこと。
とん、とんノックの音が部屋に響きました。
そのリズムからから大体の見当をつけた姫は急いで起き上がり、
ドレスの乱れを整えてにっこりと笑顔を作ります。

「どうぞ」
「失礼いたします」

言いながら入ってきたのは、予想通りジオティでした。
あいかわらず飾り気のない衣服をぴしりと着こなし、
そろそろ白いものが混じりはじめた頭髪は
一本の乱れもなく結い上げられています。
姫の礼儀作法から学問、あらゆる教養を叩き込み、
王女としてふさわしい品格を身に着けさせるのが彼女の使命。
いささか融通がきかなかったり、ガンコなところはありますが
心から姫を思って職務にはげむ姿は、
お城のみんなに慕われていました。

「なあに?」
「姫が退屈なされているのではないかと思いまして」
「別に、退屈なんて……」

このあいだうっかり「退屈」ともらしてしまったばっかりに、
分厚い法学の本を半ば強制的に貸し与えられた苦い記憶が
姫の脳裏に浮かびます。

「あら、お忙しかったんですか。それは失礼いたしました」

意外そうにそう言って、ジオティはあっさり出て行こうとします。
思わず、その背中に声をかけてしまいました。

「ね、ねえ」
「何か?」
「一体、何の用だったのよ」
「いえ、大したお話ではございません。
ご多忙な姫のお邪魔になってはなりませんから」
「……もう、イジワルはやめてよ。気になるじゃない」

ふ、と教育係の口元が緩みます。

「本当に大したお話ではないのですが……
牛車商人が来ておりまして」
「牛車商人?」
「行商の許可を得たいと」
「ということは……」
「はい。異国の品をお持ちしたので、何か献上させてほしいと」
「行く行く! 見る!」

ジオティの言葉をさえぎって、姫は声をあげていました。

   ×   ×   ×

はい、まだTFの影も形もなくてすみません。
当分はこんな感じでじわじわ進みます。

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コメント

  1. 現在楽識 | URL | -

    Re: 『涙目王女』 その1

    や、やばい・・・・・・この気配は何かとんでもない悲劇にお姫様があってしまうような楽しい流れの気がしてきましたw
    あれですか?魔法のアイテムでも出てくるんですか?

  2. greenback | URL | xB9R6Xc2

    Re: 『涙目王女』 その1

    >現在楽識さん
    そういうことになりますねw
    何のひねりもない展開になっております(汗

    あ、あと言い忘れてたんですが
    メッセンジャーは利用してません。
    せっかく教えていただいたのに、申し訳ありません。

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