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『大女優』

2011年03月15日 00:46

前回、久々に加齢タグのエントリをあげたところ、
もーねるさんから素晴らしいCGを頂いてしまいました。

ありがたやありがたや。

あまりにもふつくしいのでそのまま貼るのももったいないと思い、
例によって拙いSSをしたためているうちに
世の中がいろいろと大変なことになってしまいましたが、
ひとまず完成にこぎつけたので公開させて頂きたいと思います。

  ×   ×   ×

百井かおるは女優である。
6歳の時に子役でデビューし、
スクリーンでのキャリアを重ねながらも
精力的にテレビドラマやCMでも活躍を続けている大女優だ。

ベテランの域に達してなお一人芝居に挑戦したり、
単身ハリウッドに渡って何のコネもないところから
オーディションで役を勝ち取ったり……
常に新しいことに挑戦し続けてきた彼女の存在感は、
時代の流行に振り回されながら消えていく
そこらのタレントとはレベルが違っていた。

「ふふっ、誉めすぎでしょ」
「いえ、そんなことありません!
私、百井さんに憧れてこの世界に入ったんですから」

そう、駆け出しのアイドルであるユキなどとは、
そもそも格が違うのだ。
ほんのちょい役ながら共演の機会を得て、
同じ作品に関わる機会を持てただけでもラッキーだったのに、
こうして撮影後にふたりで話す時間を持てるなんて……
これは願ってもないチャンスだった。

「このあいだの映画も、凄く良かったです!」
「あら嬉しい」

煙草をくゆらせながらゆったりと話す、
イメージそのものの大女優。
この人に気に入ってもらえれば、
確実にステップアップの機会に恵まれるはず!
ユキは目を輝かせ、
興奮気味に出演作を挙げては賞賛の言葉を並べていく。
百井はなかば苦笑しながらそれを聞いていたが、
やがてくすりと笑ってみせた。

「もういいよ、ユキちゃんの気持ちは分かったから。
ありがとね」
「そんな、お礼を言わなきゃいけないのは私の方で」
「や、ほんとほんと。
そこまで惚れ込んでくれる人、最近はそういないんだってば」
「そ、そう……でしょうか」
「あら、照れてる? かわいいねぇ」

女優は微笑を浮かべて、ゆっくりと手を差し出す。
握手を求められているのだと気付くまで、
少しだけ時間がかかった。

「あ、ありがとう、ございます……」
「わぁ、すべすべだ。やっぱり若いっていいもんだね」
「いや、でも、百井さんだっていつも若々しくて……」
「ふふ、言うと思った」

いたずらっぽい色をたたえたふたつの瞳が、
こちらをまっすぐに見つめている。
やった、掴んだ、と思うのと同時に
背筋を何か冷たいものが走り抜けるのを感じ、
ユキは思わずぶるりと身震いをした。

「あたしのこと、そんなに若々しいって思う?」
「え、ええ」
「もちろん? おかしいって思わない?
本当の歳なんてもちろん公表してないけど、
デビューからの年月数えただけでも、
もっと老けてていいはずだよね」
「あいや、でもそれは何か、ケアとかトレーニングとか」
「ないない。あたし、そういうの苦手だもん」
「……?」

分からない。
百井が何を言いたいのか、何を考えているのか、
ユキにはちっとも分からない。
ぎゅっと握ったままの手に、痛いほどの力がこもる。

「ふふ、教えてあげようか。女優っていうのはね、
ファンからエネルギーをもらって生きてるの。
ユキちゃんあなた、あたしに憧れてくれてるって言ったよね?
だったら、ちょっとお願いしてもいいかな」
「な、な、何を」
「若さ、ちょうだい」

百井があまりにもあっけらかんと、
あまりにも無邪気に言ってのけるものだから、
ユキにはそれが何かの冗談にしか思えなかった。

「は、あははは、そ、そうなんですか」

でも何か、何かがやばい。

「そうなの。笑っちゃうよね。いいかな」

うなずいちゃいけない。逃げなきゃいけない。

「え、ええ。いいですよ。私なんかで良かったら……」

本能が、はっきりとそう告げていたのに。

「ありがと」

百井の言葉とともに、握った手の中がふわりと光る。
あれ、と思った次の瞬間、ユキはすさまじい勢いで
全身から力が抜けていくのを感じた。
百井と触れあっている部分だけが焼けるように熱く、
残りの身体はかつて味わったことのない倦怠感に包まれていく。
何が起こっているのか分からないまま、
反射的に手をふりほどこうとして……
ユキはその左手に起こっていることに初めて気付いた。

皮膚の色が褪せている。
つややかに赤みを帯びていたはずの肌が全体にくすみ、
ところどころに大きな黒子のような班が浮かんでいた。
色だけではない。
その表面は潤いと張りを失い、乾燥して深いしわが刻まれている。
ふっくらとした肉が落ち、ごつごつとした関節が強調される。
疑う余地はなかった。
老いている。
枯れている。
しかもその異変はじわじわとその面積を増し、
腕へ、肩へ、そして胸へと浸食を続けているのだ。

「いやぁああああっ! 何? 何? どうして!?」
「言ったはずだよ? 比喩でも何でもなく、
女優ってのはファンから生気を吸って、
代わりに魅力を提供する生き物なんだってば」
「でも……こんな……こんなことが……」
「映画やテレビで何万人ものファンを相手にしてるときには、
ひとりひとりの負担は大したことない。
でも、こうして直に、マンツーマンでいただいちゃうとね。
どうしてもこうなるよね。ごめんねぇ」

左の胸が、くたりと垂れる。関節が鈍く痛む。
服の下で、老化が進行しているのがはっきり分かる。

www_dotup_org1387381.jpg

「こ、こんなことして、許されると思ってるんですか?
あたしがもし、誰かに喋ったら……」
「喋る? あは、どうやって?
どこの誰かもわかんないお婆ちゃんが、
入れ歯もなしにフガフガわめいてたって、
そんなの誰が聞くわけ?」
「お、お婆ちゃんって……」
「お婆ちゃんでしょ? 違う?
ああほら、髪もずいぶん白髪になってきた。
目だってかすんできたんじゃない?
早いところ、老眼鏡作らなくっちゃね」
「だれかっ! たひゅっ、けほっ、けほっ」
「ああほら、言わんこっちゃない。大丈夫? 水飲む?
あのね、残念ながら人呼んでも無駄なんだ。
この楽屋には、ことが済むまで絶対に誰も入ってこない。
あんたのマネージャーだって、事務所だって、
あたしが若い女の子と2人になるってのがどういうことなのか、
ちゃんと分かってるからね。
今頃はあんたが失踪した理由をでっちあげるのに
忙しいんじゃないかな。
ああ、そんな顔しないでよ。
いっぺん吸っちゃった生気を戻すなんて、
あたし自身にも無理なんだから。
せめてもの償いに、
ユキちゃんの老後はちゃんと面倒見てあげるね。
ちゃんとした施設に入れて、ちゃんとした介護が受けられて、
個室には……そうだ、おっきいテレビを置こうか。
あたしが出てる番組、全部見られるようにしてさ。
こうして貰った若さは、責任もって仕事に活かしていくからね。
最も熱心なファンの1人として、
いつまでもしっかり見届けてくれたら嬉しいな。
そのためにも、ずっと健康で長生きしてね、ユキおばあちゃん」

なんとか聞き取ることができたのはそこまでだった。
耳に何かがつまっているように、百井の声が遠くなっていく。
いつの間にか口の中に転がっていた異物が、
抜け落ちた歯だとようやく気付く。
視界がぼやけていくのが老眼のせいなのか、
溢れ出す涙のせいなのか、あるいはその両方なのか……
もはやユキには分からなかった。

   ×   ×   ×

もーねるさん、
このたびは素晴らしいCGをありがとうございます。
yayameさんじゃないけど、ほんと感涙ものでした。

それに引き換え、ついこないだ読んだ
ななおさんの文章表現に影響受けまくってるなあ、俺。
精進、精進。

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コメント

  1. もーねる | URL | H2uJSVVU

    Re: 『大女優』

    こんばんは、もーねるです。震災により多少混乱はあったものの、とりあえずは生存報告します。
     素晴らしいお話をつけてくださったことに感謝します。やっぱり「どうしてこうなった」的な
    説明があるとないとでは雲泥の差ですね。
     結構いい年してるはずの大女優が若さを保つ秘密・・・
    それを知る時に破滅が訪れるとか、かなりツボなシチュエーションです。

     greenbackさんは様々なジャンルを扱っているので、いつも老化というわけにいかないでしょうが、
    気が向いたら、また是非見せてもらいたいです。

  2. greenback | URL | 1joVCph6

    Re: 『大女優』

    >もーねるさん
    コメントありがとうございます。
    ご無事で何よりでした。
    そして喜んで頂けたようでほっとしております。

    弱小ブログではありますが、このたびのプチ老化祭りで、少しでもOLDAPに光が当たったらいいなあと。
    もちろん私も、また何か思いついたら発表していきたいと思っています。

    改めて、ありがとうございました。
    もーねるさんのこれからのご活躍も楽しみにしております。

  3. yayame | URL | -

    Re: 『大女優』

    >もーねるさん
    ご無事でなにより!

    >greenbackさん
    ここがOldAP最後の牙城でございます...

  4. greenback | URL | xB9R6Xc2

    Re: 『大女優』

    >yayameさん
    何をおっしゃいます、ウチみたいなごった煮ブログより、やっぱり必要なのは専門店。
    というわけで、turnwhiteの復旧を楽しみにしております。
    ともあれ、お楽しみ頂けたのなら幸いです。

  5. もーねる | URL | H2uJSVVU

    Re: 『大女優』

    yayameさんもご無事でしたか。良かったです。
    投稿などはすっかりご無沙汰してましたが、
    サイトの復活を楽しみに待たせてもらいます。

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