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アプリの戦士☆アイポン&ロイド:後編

2012年02月28日 01:41

メルモやあっこちゃんを紐解くまでもなく、
「魔法少女」と「変身」という要素は切っても切れません。
たまに戻れなくなって困る展開があったりして、
まだ「こっち」の嗜好に気づく前の無垢な私は
正体不明の胸の高鳴りを抱えて悶々としたものでした。

そんなこんなで後編。
例によって絵も描いたけど、
例によってひどいのでご留意ください。

あ、前編未読の方はそちらをお先にどうぞ。

   ×   ×   ×

とにかく、いちど引き離さないと……
そう思った次の瞬間、
あいちゃんの背筋に電撃のようなものが走りました。
「んんっ!?」

いったい何が起きたのか分からないまま、
あいちゃんは急速に混乱していきました。
今のって何? 
攻撃? 
みそらさんが?
私がニセモノだってバレちゃった?

『落ち着いてよく見ロイド! ほら、彼女の右手』
「え……?」

ロイド君の言葉にうながされて、
あいちゃんはみそらさんの右手に目をやります。
それはいつの間にかあいちゃんの股間へと延びていて、
そこにあるものをしきりにまさぐり、
こすりあげるような動きを執拗に繰り返していたのでした。

そこに、あるもの。
固く熱くそそり立ちはじめた、そこにあるもの。

それは、あいちゃんがこの姿――
ミスターフェロモンに変身してからずっと、
意識しないようにしようとしていたものでした。
小さくて可愛くて誰からも愛される元のあいちゃんとは、
何もかもが違うこの身体。
さえなくて、むさ苦しくて、
ごつごつぶよぶよべたべたしていて……
でも、その中でもいちばん違っている、その部分。

男性器。

もちろんあいちゃんだって、
男と女の身体が違うことは知っています。
でも、遠い昔――まだお父さんとお風呂に
入っていた頃――のおぼろげな記憶の中にしかない、
気持ちの悪いあの肉の棒が、
一時的とは言え自分の身体から生えているなんて、
考えたくなかったのです。
ましてそれが、実際に勃起してしまうなんて。
大きく膨らんで、
服の上からでも視認できるほどになってしまうなんて。
女の人に撫でられて――気持ちよく、なってしまうなんて。

「ご主人様ぁ……みそらはずっとお待ちしてたんですよ?
お申し付け通りのこの服装で、
良い子に良い子にしておりました。
だからご褒美を頂いても、よろしいですよね?
いつものように」

みそらさんの声が、みるみる艶を帯びていきます。
荒い息づかいの吐息まじりの台詞を耳元で囁かれると、
あいちゃんの身体もそれに呼応するように
かあっと熱く燃え上がりました。
な、何考えてるの私?
みそらさんがこんなことしてるのも、
ぜんぶフェロモンの洗脳のせいなんだから。
術さえ解いてあげれば――ええと、キーワードは、
ええと――どくんどくんと脈打つ自分の鼓動が
うるさいほど頭に響いて、うまくものが考えられません。

「あ……いや……だ、だめだよ……」
「ふふ、何がダメなんですかご主人様?
みそらは愚かなので、
言っていただかなきゃ分かりませんわ……」
「何がって……あっ」

あいちゃんがあたふたしているうちに、
みそらさんは慣れた手つきでファスナーを
下ろしてしまいました。
拘束から解放されたペニスが
ぶるんと勢い良く跳ね起きるのを見て、
あいちゃんは悲鳴を上げます。

「嫌ぁあああっ!」

それはあいちゃんの想像を遙かに超えて大きく、
醜悪な形をしていました。
先走りに濡れて鈍く光りながら
時折ぴくんぴくんと物欲しげに蠢くその様子は、
さながらSF映画に出てくる宇宙生物のよう。
その根本には黒々とした陰毛がわさわさ繁茂していて、
そこからツンと漂う酸っぱい体臭は、
吐き気がするほど気持ちの悪いものでした。
でも、それこそがミスターフェロモンの能力の肝。
マジカルアプリ「ファントムコピー」の再現は
そこまで及んでいたのです。

「ああ、これです! ずっと、ずっと待ってた!」

みそらさんは犬のようにくんくん鼻をならしたかと思うと、
とろけるような表情を浮かべて
あいちゃんの股間に顔をうずめました。
嬉しそうにくすくす笑いながらその臭いを堪能し、
やがて当然のようにそこにある陰茎をぱくりとくわえます。
 同時にさっきの「電撃」を数倍にしたような、
すさまじい衝撃があいちゃんの身体を貫きました。
ちろちろと舌先で尿道を刺激されるたびに、
ちゅぶちゅぶ音をたてて海綿体を吸われるたびに、
その衝撃――とてつもない快感の波――は
大きさを増していきます。

こんなのおかしい。
ありえない。
私、女の子なのに。
正義の味方なのに。
こんなもの生やして、しゃぶられて、
気持ちよくなっちゃうなんて、絶対おかしい。
それなのに。それなのに。それなのに!

ふわっと宙に浮くような――あるいは、
何かが爆発するような感覚とともに、
あいちゃんは精を放ちました。
それは皮肉にも、あいちゃんにとって初めての絶頂。
そっち方面にはとんと奥手だった彼女にとって、
セックスどころかオナニーすら未経験の領域だったのです。
だからこそ、その体験はあまりにも強烈で、
あいちゃんに残されたわずかな理性をぬぐいさるのには
十分すぎるほどのインパクトを持っていました。

「ありがとうございますご主人様。
とっても美味しいですわ……」

みそらさんは幸せそうに口いっぱいの白濁液を飲み下し、
なおも愛撫を続けます。
体液にまみれて一度はくたんと萎れたペニスも、
その優しい感触に少しずつ回復の兆しを見せ始めていました。
そう、もてない男のルサンチマンが集まってできた
ミスターフェロモンの性欲が、
たった一度の射精で収まるはずがありません。
その哀しくあさましい生態を、
あいちゃんの肉体は完全にコピーしてしまっていたのです。

『あいちゃん、しっかりしロイド!』

ポケットの中からロイド君が叫びます。
骨伝導を利用していつもクリアに聞こえてくるはずの
その声が、なんだかこの時は不思議に遠く聞こえました。

『目的を見失っちゃ駄目だロイド!』
「もく……てき……」
『そうだロイド! キスは済ませたんだから、
あとはキーワードさえ言えば洗脳は解けるはずだロイド』
「せん……のう……」

そう、それですべて終わり。
みそらさんは解放されて家に帰り、
あいちゃんもコピーを解除して、
元の姿に戻って一件落着です。
それは、とっても簡単なこと。

……でも。
と、あいちゃんは考えてしまいました。

――でも、そんなに簡単なんだから、
もうちょっとくらい遅れても良いんじゃないかな?
目の前には再びぎんぎんに立ち上がった男性器と、
それを弄びながら器用にメイド服を脱いでいく
みそらさんの姿がありました。
どこまでも白く、柔らかい肌。
可愛いデザインのブラジャーの中から現れる、
形のいい胸とほんのり色づいた乳首。
それらはまるで、とびきり上質な和菓子のようでした。
とろけるように甘く、美味しそうなその肉体を前にして、
暴走する男の本能がまともな思考を許すはずがありません。
 
――ほんのちょっと、触るだけ。
さっきしゃぶってもらったんだから、お返しをするだけ。
パンツが邪魔だから、脱がすだけ。
こんなに濡れてるんだから、ほっとくなんて悪いから。
ほんの少し、入れてみるだけ。
――わっ、わっ、何これ?
あったかくてやわらかくて、
それなのになんか、ぎゅうって締め付けてくるみたいで。
みそらさん、凄くえっちな顔してる。
凄くいやらしい声だしてる。
軽く入れただけでこんなふうになっちゃうなんて……
私、もしかして上手いのかな?
い、いや別にちっとも嬉しくなんかないけど、
でも、気持ちよくさせてあげるのは、
悪いことじゃないよね?

ミスターフェロモンの肉体に宿っていた性欲は
あまりにも強大で、あいちゃんの思考回路を
簡単にジャックしてしまいました。
自分への言い訳を次々とひねり出しながら、
あいちゃんの行為はエスカレートする一方。
ほどなく2度目の射精を迎えてもその勢いは
衰えるところを知らず、時間が経つのも忘れてただただ
ひたすらにみそらさんの肉体をむさぼり続けて――
それは日が落ちて夜を迎え、文字通り精魂尽き果てて、
あいちゃんが意識を失ってしまうまで
終わることはありませんでした。

   ×   ×   ×

――ZZZ
どこかで、誰かがあいちゃんのことを
呼んでいるような気がしました。
何度も何度も、しつこいぐらいに繰り返すその声は、
しだいに大きさを増して、やがて叫び声になっていきます。
あいちゃんも一応、答えようとはするのですが、
身体が泥のように重くて、どうにも力が入らなくて、
とにかく疲れていて、小さくこう返すのがやっとでした。
ごめんね、また後にしてくれないかな――
ほとんど悲鳴のようになっていたその声は、
最高潮に達したかと思うと突然、
ぷつんと消えてしまいました。
あいちゃんは悪いことしたかなあ、と考えます。
でもやっぱり、睡魔にはかないません。
なんだったのかなあ、まあいいかあ……
こうして再びあいちゃんは、
泥のように柔らかい眠りの中に、
ゆっくりと沈んでいったのでした。
ZZZ――

   ×   ×   ×

あいちゃんはもともと、
あまり早起きは得意ではありません。
特にちょっと夜更かしをしてしまった日の翌朝には、
寝坊してしまうことも珍しくありませんでした。
その朝もやっぱり、目を覚ましたのは
ずいぶん日が高くなってからでした。
眠い目をこすりながら壁に掛かっている時計を眺め、
ゆっくりとその時間を認識して……はっと飛び起きます。

「やばっ、遅刻しちゃう」
「あら、お目覚めですかご主人様」

自分の口から漏れた声質の違和感と、
その直後に現れたみそらさんの笑顔で、
あいちゃんは昨日の顛末をすっかり思い出しました。

「そうか……私、夢中になっちゃって……」

それは文字通り、夢の中にいるようなひとときでした。
霞がかかったように現実味が薄く――
彼女は半ば意識的にそれを夢だと思いこむことで、
自分がやらかしたことから
目をそらそうとしていたのかもしれません。
でも、記憶が消えてしまったわけではありません。

ひとつ思い返せばまたひとつ。
昨日の破廉恥行為が次々とフラッシュバックしてきます。
助けに来たはずの相手に向かって鼻息を荒くして、
まるで本物の男の人みたいにへこへこ腰を振って……
なんて浅ましいことでしょう。
どれだけ見苦しかったことでしょう。
そしてふと視線を落とせば、そこにあるのは
あまりにも生々しい中年男性の肉体。
服を着ていないため、昨日は見ずに済んでいた
胸毛や三段腹までもがいやでも目に入ってきて、
あいちゃんは心の底からうんざりしてしまいました。

「最低だ……何やってんだろ、私」

さっさとみそらさんの洗脳を解いて、元に戻ろう。
まず家に連絡して、心配してるパパとママに謝って、
学校に行って、先生に叱られて――
それから普通に勉強して、
普通に帰って宿題して、
普通にご飯食べてお風呂入って。
そういうことが、すごくしたい。無性にしたい。
ごめんねロイド君。
ずっとそう言ってくれてたのに、
私ったら……でも、もう大丈夫だから。
……ね?
……ロイド君?

どんなときでも返ってくるはずの返事がないことで、
あいちゃんはようやく、ロイド君が――
魔法のスマートフォンが見あたらないことに気付きます。
きょろきょろと部屋の中を見回しますが、
どこにもそれらしいものはありません。

「いかがなさいました、ご主人様」
「いや……あの、みそらさん知らないかな? 
このくらいの、ピンク色の」
「ああ、あのオモチャですか」

あいちゃんの問い掛けに、
みそらさんはにっこり笑顔を浮かべました。

「処分いたしましたよ」
「……え?」
「ご主人様ったら、あんなオモチャを拾ってきて、
どうなさるおつもりだったんですか? 
それでなくても物が多くて
収納に頭を痛めておいでなんですから……
お料に洗濯、そしてお掃除を言いつかっている
メイドのはしくれとして
不肖みそら、断捨離を実行させていただきましたっ」

お茶目な敬礼のポーズをとったみそらさんに
思わず返礼をしながら、あいちゃんは汗が――
昨日のそれとは異なる、
いわゆる冷や汗が鼻の頭に浮かぶのを感じていました。

「それって――つまり、捨てたってこと?」
「はい」
「どこ? ゴミ箱どこ? これ?」

台所のすみに置かれたゴミ箱をひっくり返して、
中身を床にぶちまけます。
でも、魔法のスマートフォンはどこにもありません。
冷や汗は上半身全体に広がり、
ぷつぷつと鳥肌まで立ってきました。

「あの……今日ちょうど燃えないゴミの日でしたので、
出してしまいましたけど」
「出した?」
「はい。表のゴミ捨て場に。
それであの、ご主人様がまだお休みの間に、
収集車が来て――」

すうっと血の気が引いていくのを感じながら、
あいちゃんは夢うつつで聞いたあの声の正体を
ようやく理解していました。
あれは、ロイド君の断末魔だったのです。
いえ、厳密に言えば超生命体であるロイド君が
死ぬことはないのでしょう。
しかし、あのスマートフォンは彼がこの世界に干渉する、
たったひとつの窓口。あれがなければ、
二度とあいちゃんとコンタクトをとることが
できなくなってしまいます。
だからこそあんなに必死に、
ゴミ収集車のローラーに巻き込まれて粉々になっていく
最後の瞬間まで、ロイド君は繰り返し
あいちゃんの名前を呼び続けていたのでしょう。

でも、すべては手遅れ。
 
ロイド君との通信手段は完全に失われ、
マジカルアプリは使用不能。
アイポンとして悪と戦うことも、もう2度とできません。
いえ、そんなことより――といっては
語弊があるかもしれませんが――
ロイド君に会えないのは寂しいし、これから
怪人たちからどうやって街を守るのかといった問題も
たしかに重要なのですが――でも、それよりもっと根本的に、
ずっとずっとまずいことがあります。

この変身……ファントムコピーが、解除できないのです。

ロイド君は言っていました。
元に戻るには『もう一度アプリを立ち上げて、
コピー解除を選択』する必要があると。
それは逆に言えば、アプリを立ち上げるための
アイテムがなくなった今――あいちゃんはこのまま、
幕本あいに戻れないということ。
これから先の人生を、ずっとこの不細工な怪人として
生きて行かなきゃいけないということに他なりません。

太くて無骨で毛深くて、臭くて貧相で醜くて……それは
さっきまで思い浮かべていた女子中学生の「普通」とは、
天と地ほども隔たった別世界。
この身体でものを食べ、寝て、起きて、排泄して……
考えているうちに吐き気を伴う嫌悪感が、
胸いっぱいにこみあげてきました。

やだ、そんなの絶対やだ。
冗談でしょ? 冗談だよね?
だってこんな、こんなバカみたいなことで――
私――ねえ、何か、何か方法あるんでしょ?
ねえ誰か、助けてよ。
お願いだから……嘘だって言ってよ……

「ご主人様?」

真っ青になってぶるぶる震えながら、
両手で顔を、体を撫で回すあいちゃんの様子を見て、
みそらさんが心配そうに声をかけます。

「大丈夫ですか? 何か飲み物でもお持ちしましょうか」

その、あくまでけなげな表情。
そう、彼女はいまだにミスターフェロモンの
洗脳術にとらわれたままなのです。
ふと、あいちゃんは気付きました。
今からだって、みそらさんを解放してあげることは
できるのだということを。
今この場で「お別れだぜベイビー」と言えば、
洗脳はたちどころに解けるはずです。
おそらく彼女は我に返り、悲鳴をあげて
この部屋から逃げ出して――ほどなく、
「普通の」日常生活を取り戻すことができるでしょう。

「それで後には、この無様な肉体に
閉じこめられた私が残されるってわけね……
ふふ、あはっ、あははははははははははははははっ」

冷たい麦茶を持ってきたみそらさんは
「ご主人様」が急に爆笑を始めた理由が分からずに、
困惑した表情を浮かべています。
そんな彼女に向かって、あいちゃんは大声で言い放ちました。

「お別れ……なんて、してやるもんかあっ!」

その両目に、じわりと涙がにじみます。

「こんなことになったのは、
みそらさんのせいでもあるんだもんね? 
勝手にご主人様のもの捨てるなんて……
いけないんだ、メイドさんのくせして、いけないんだあ」

みそらさんは「ご主人様」が言っている
「こんなこと」の意味が理解できず、目を白黒させています。
でも、自分が何かまずいこと――
取り返しのつかないことをしてしまったらしいことだけは、
はっきりと分かったようでした。

「も……申し訳、ありませんでした……」
「あはは、いいのいいの、もういいの、
どうせもう手遅れなんだから。うふ、うふふふふ」
「本当に申し訳ありません!
みそらは……みそらは、どのようなお詫びでも」
「へえ」

その時、あいちゃんの顔に浮かんだ表情は、
とてつもなく歪んだものでした。
絶望と自暴自棄。
怒りと自己嫌悪。
とめどなく湧き出る後悔と、
それをさらに上回る雄の性衝動。
それら全てが混ざり合い、溶け合って爛れ、腐り、
ぐつぐつと沸騰しているような……
この上なく卑しく醜悪な、笑顔。

「じゃあさ、しゃぶってよ」

最低の台詞を口にしながら、あいちゃんは自分の中で
とてつもなく大切なもの――正義の味方として、
女の子として、人として無くしてはならない何か――が、
音を立てて崩れ去っていくのを、
はっきりと感じていました。

おしまい。

aipon2.jpg


   ×   ×   ×

やっぱり生命力と不確定要素の固まりである
「思春期の少女」という生物は
(主観的にはともかく、大人から見れば)
「何にでもなりうる存在」なのだと思います。

時は流れ、本来のターゲットだった小さな女の子のみならず、
大きなお友達を含めた多様な層が
魔法少女たちに魅了されるようになりました。
今やひとりひとりが自分なりの形で
彼女たちを愛し、憧れ、声援を送る時代。
その片隅でひっそりと、このようにけったいなお話を
お送りさせていただいた・・つもりだったんですが、
「変身モノ祭り」ではまさかのトップバッター。
びっくりした人もいたでしょうが、私が一番びっくりしました。

ともあれ、読んでくださった方と
お祭り主宰のtoshi9さんに改めてお礼申し上げます。
ありがとうございました!

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