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『涙目王女』 その8

2008年11月04日 00:30

というわけで、前回にて秋の頂き物祭りはおしまい。
今回より通常営業に戻ります。

今北さん用あらすじ

・おひめさまがいました
・不思議なイヤリングを手に入れて(´∀`)なはずが、あれれ?
・なぜか夜、ブサイクな姿に……なんでだ??

はじめから読むひとは→1話へ

   ×   ×   ×

姫の脳裏に浮かんでくるのは、
王子とのウサギ狩りに行った、あの日の夜のこと。
愛を確かめ、再開を誓い、王子を送り出して
部屋に帰ってきた姫は、幸せの絶頂にいました。

そう、その朝感じていた違和感を思い出すまでは。
イヤリングを外したとたん、
姫はふたたび「その感覚」にとらわれたのです。
なんだろう、何がおかしいんだろう……?

「あ」

鏡を眺めているうちに、
姫は右目の下にひとつのそばかすを見つけました。
なんてことのない、ほんのちいさなそばかす。
よくよく見ないと、気付きさえしないようなサイズのものです。

「……」

ふとあることを思いついて、もういちどイヤリングをつけてみます。
ぱちん。
ぱちん。

「やっぱり……」

なんと、装着している間、そのそばかすは消え去っているのです。
それが、いつからあるものなのかは分かりません。
ひょっとしたら、以前からあったのかもしれません。
いずれにせよ、そのちょっとした違いが、
姫にとっての「なんとなくの違和感」として
認識されていたのでした。

「そうか」

つまり、姫が感じていた違和感は、
ある種の「気のせい」には違いなかったのです。
このイヤリングの、不思議な力。
それによって――牛車商人・フリーダの言葉を借りるなら
「美しさを引き出された」状態の姫にくらべ、
通常時の彼女がやや見劣るのは無理のないことなのでしょう。
謎はとけました。

「でも……」

でも、そうです。
いささか困ったことになりました。
いくら「多少」とはいえ、昨日・今日と姫は
このイヤリングの力を借りた美しい姿を、
皆の前にさらしています。
明日、イヤリングをつけていかなかったとしたら……?
たとえ言葉に出さなかったとしても、
周囲の困惑は、表情にあらわれてくるはずです。
いえ、それより何より、レオナルド王子。

「――何だかまた綺麗になったから」

昼間、うっとりした表情でそう言っていた王子の言葉が、
まざまざとよみがえってきます。
それならば……そう。

答えは、ひとつしかありませんでした。

その日から、姫は毎日イヤリングをつけるようになりました。
以前から彼女の容姿は国民に愛されていましたが、
それとは比較にならない賛辞の嵐。

いわく、シュレアルの宝石だとか、
花開いたつぼみだとか、
太陽だとか。
詩人たちもこぞってその美しさを歌に込め、
名だたる画家たちは
肖像画を描く権利のために火花を散らします。

しかし、うなぎのぼりの名声の一方で、
姫のかかえる不安は少しずつ大きくなっていきました。
夜、寝る前にイヤリングを外した時の姫の容姿が、
少しずつ、しかし確実に変化してきていたのです。
肌が荒れ、そばかすが増え、スタイルも……

こんな姿、誰にも見られたくない。
いえ、見られてはいけない。
でも、部屋には鍵がついていないし……
お願いしちゃおうかな?

でも、いきなりそんなこと言い出したりしたら、
みんな変に思いはしないでしょうか。
怪しまれてしまっては元も子もありません。
それならいっそ……
姫の脳裏に、妙案が浮かびました。

「……ずっとイヤリングをつけ続けていればいいんだわ」

そう、これしかありません。
つけてさえいれば、姫は美しい姿のままでいられるのです。
さいわい、その留め金はおそろしくよくできていて、
どんなに長い時間つけていても
耳が痛くなるようなことはありませんでした。


こうしてまた、一週間ほどの時間が何事もなく流れていきました。
様々な勉強に運動、市民への顔見せにダンスパーティー……
高まる人気をありありと実感しながら
普段どおりのスケジュールを消化していく毎日。
しかし、そんな輝かしい日常の一方で、
姫はどうしても頭の隅から「ある考え」を
追い払うことができませんでした。

フリーダの「美しさを引き出すイヤリング」という言葉。
その「引き出す」という表現が、気になってならないのです。
美しさを「与える」のでも「増す」のでもなく、「引き出す」。
そこには、潜在的に蓄えられている美しさを、
むりやり取り出して浪費する……
そんなニュアンスがありはしないでしょうか?
それを続けて行った先には、
あるいはいつか……「美しさの枯渇」が……

ぶるぶる、と頭を振って、その仮説を打ち消します。
そう、これはただの仮説。
仮説ですが、恐ろしいことに
こう考えることで全ての説明がついてしまうのです。
そして、もし…もし仮に万が一、その仮説が真実だとすれば、
この一週間、常にイヤリングをはずさずにいた私は……

まさか。

   ×   ×   ×

9話へ

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コメント

  1. 現在楽識 | URL | OOy8wYYM

    Re: 『涙目王女 その8』

    ……ああやっぱり、枯渇ですか……

    さぁあ、どうなる、最後に姫はドコまで泣くw

  2. greenback | URL | xB9R6Xc2

    Re: 『涙目王女 その8』

    >現在楽識さん
    お待たせしててすみません。
    次回でいいかげん回想たたんで、話をすすめていきます。

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