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『中の人などいない』 前編

2008年05月03日 14:55

勝手にコラボシリーズ第2弾。
憂鬱狼kenさんちの怪獣娘さんが素敵すぎたので
カッとなって書いてしまったお話です。

本家の神絵はこちら↓

girl→monster...
monster film

轟音とともに、ビル郡がなぎ倒される。
悲鳴をあげて逃げ惑う人々。
ようやく到着した自衛隊の戦車が、
キャタピラの音も勇ましく向かっていくのは――六本木の中心街。
できたばかりの大型商業施設を軽々と払いのけ、
もうもうとたつ土ぼこりの中からゆっくりと姿をあらわした、巨大なシルエット。
それは――『あたし』だ。
試写会のスクリーンを見つめながら、
あたしはなんとも言えない感覚につつまれていた。

きっかけは、半年ほど前のこと。
学校帰りに立ち寄ったコンビニで、
ラックの無料求人雑誌を何気なく手に取ったのが全てのはじまりだった。
その足でファーストフード店に入り、
ユウと一緒にいつものダブチを頼んで斜め読みする。

「え、バイトすんの、ヒトミ?」
「分かんない、なんか面白いのあったらね」
「へえ、どれどれ……、
あ、これなんか面白いんじゃない?
映画のエキストラだって」
「うーん、面白いかなあ」
「面白い面白い、ていうか私が行きたい。
一緒に行こうよ、いつなら空いてる?」

ユウが強引なのはいつものことだ。
その場で電話をかけて、面接の予約までとりつけてしまった。
あたしの意見は完全無視。
まあ特に強く反対する理由もなかったし、別にかまわなかったんだけど……

数日後。
あたしたちは、撮影所に来ていた。
楽屋、っていうのかな?
お菓子の置いてある大きな部屋に、たくさんの人があつめられていた。
子供からおじいさんまで、ほんとに色んな人がいる。
知ってるタレントさんはいないかな、と思って
きょろきょろしたけど……いない。
そりゃそうだよね、有名人はこんなところに混じってないよね。

「それじゃ、順番にお名前呼びますんで、
呼ばれた方は面接室にいらしてくださーい」

スタッフのお兄さんが、大声をはりあげる。

「えーと、甘木さん、甘木ユウさんいますかー?」
「あ、はいはーい!
んじゃ行ってくるから、主演女優狙うから」
「はいはい」

苦笑いしながらユウを見送ろうとした時、
スタッフのお兄さんに声をかけられた。

「君は仲野さん、かな?」
「え? あ、はい」
「じゃ、こちらへどうぞ」

それなりに緊張してたし、ユウと一緒に面接できるんならラッキーだ。
そう思ったけど……残念、面接する場所は別なのね。
とんとん、とノックしてスタッフさんが通してくれた部屋に入る。
なんとなくスーツの人とかがずらっ並んでるイメージだったんだけど、
いたのはタオルを頭に巻いてラフな格好をしたお兄さんだった。
――わ、ちょっとイイかも。

「はじめまして、特殊技術の丸谷です。
えーと、仲野さんね、ちゃちゃっとやっちゃおうか。
アレルギーとかは無いのかな?」
「あ、はい、無いです」
「OK、あと誓約書にはサインしてくれたんだよね?」
「あ、あの、さっき待ってる時に配ったピンク色の紙だったら書きました。
長かったから、ちゃんと読んでないけど……」
「あはは、ダメだよちゃんと読まなきゃ。
確かにめんどくさいけどね。
まあいいや、誓約済み、と……そんじゃ、これ飲んでみてもらえる?」

そう言って、丸谷さんが差し出したのは、紙コップに入った液体だった。
水、みたいに見えるけど……?

「あの、コレって……?」
「ふふ、誓約書に書いてあったはずだけど?」

いたずらっぽく丸谷さんが笑う。
まあいいか、みんな飲んでるんだろうし……。
――ごくん。
うん?
なんだろこれ、嫌な味じゃないけど……不思議な味。

「どうかな、何ともない?」
「はい、たぶん……ん、あれ?」
「おっ」

なんかおなかが張ってるな、というのが第一印象。
それが異様なスピードで膨らみだしているのに気づいた時、
視界の隅で丸谷さんがガッツポーズをしているのが見えた。

「なに? なに? なに? 何なんですかこれ!?」
「おめでとう!
仲野……ヒトミちゃん、か。
君は主演に選ばれたんだぜ!」
「しゅ、しゅえんっ?
え、どういう、ことですかあぁあッ!?」

会話している間も、身体の膨張が止まらない。
ふくれあがるおなかを押さえている手が、みるみる形を変えていく。
めき、めきと骨がきしむ。
みし、みしと筋肉が躍動する。
体中を這い回る変化の波が、あたしの呼吸を熱くしていく。
痛いような痒いような、
それでいて――気持ちよくてたまらないような感覚。
服が、ソックスが、靴が、
中身の質量に耐え切れなくなって順番にはじけ、破れ落ちていく。

「い、いやぁあっ、お、おかしいっ!
これおかしいです丸谷さんっ!
ちょっと待って、ねえ、タンマ、タンマタンマぁあ!!」
「おかしかないよ、ちゃんと書いてあったはずだぜ。
『体質検査の上、適合者であった場合には本作の主演を勤めます』って。
みごとな『適合』っぷりじゃないか。
いや、俺はひと目見たときから
いけるんじゃないかと思ってたんだよ、なんとなく」
「やだやだやだ、こんなの、いやだぁああっ!」
「ワガママ言わねえの、俺たち特技だって苦労してんだからさ。
やれ着ぐるみは時代遅れだの、かといってCGじゃ魂がこもらないだの、
演出部がうるせえんだよ。
後はモノホン出すしかないじゃないか」
「も……のほ、んグッ!?」
「そ、本物の怪獣になってくれる適合者を探してたわけ。
そして、今ようやく見つかったわけだ」

そんなの知らない、聞いてない、いやだ、いやだ、いやだぁ――
そう言おうと思った。
次の瞬間、理解した。

「グォあっ、ぐがあ、あああぁ――ッ!!」

――あたしは、もう喋れない。
いつの間にかほとんど変形を終えてしまった身体を見下ろして、涙がにじむ。
それを合図にしていたように、満を持して変化が顔に訪れる。
ゆっくり、ゆっくりと鼻が低く陥没する。
荒い息を吐く口が大きく裂けて、
その広がったスペースを埋め尽くすように全ての歯が巨大な牙と化す。
眼窩をガードするように肉壁が発達していく。
耳は小さくとがり、頭部の隅に追いやられる。
ぼこぼこ膨らみ、固まっていく皮膚に押し出されるように、
髪が――何だかんだ言いながら、
今日のために美容院で染めてもらったばかりの髪が――
ばさばさと音を立てて抜け落ちる。
あたしがあたしである記号……いやそれ以前に、
人間の女の子としての記号が、すさまじい勢いでこぼれ落ちていく。

「おお、凄え……大丈夫かい?」

大丈夫なわけないじゃない……。
いつの間にか、丸谷さんがあたしを見上げている。
そう、気付いてみればあたしは、3メートル近い巨体になっていたのだ。

「まあムリもないよ、急な話だからね。
でも、誓約は誓約、主演はしっかりつとめてもらうよ。
もちろん、君にとっても悪い話じゃないぜ?
なんたって人気シリーズの主演、報酬だってかなりのもんだ」
「う、ガァ……」
「その身体を戻すのにはそれなりに費用がかかることになるけど、
その額を差っ引いても相当なギャラになるはずだよ。
学校やご家族には会社で連絡しとくから、心配はいらない。
まあ、滅多にできる体験じゃないんだし、楽しんじゃいなよ、ね?」

――楽しむなんて、そんなのムリだよぉ……
そう、思っていた。

   ×   ×   ×

というわけで、続きます。 →次へ

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コメント

  1. 憂鬱狼ken | URL | eYj5zAx6

    Re: 『中の人などいない』 前編

    ありがとうございます。
    さっそく読ませて頂きました^^
    とても読みやすく、変身シーンも文章があると全然違いますな。
    (氏のマルチな才能に嫉妬)
    これで前編となると変身後の後日談に重点を置いたのですかね?
    さて彼女のこれからがどうなるか見物です♪

  2. oji | URL | JalddpaA

    Re: 『中の人などいない』 前編

    今回の話も面白いです。
    この後は主人公が元に戻れなくなる展開を大いに期待したいです。
    (前の時に間違って非公開にしてしまい返事を送れず、スミマセン。ただgreenbackさんも女性が体を入れ替えられる話が好きだと言うことで安心しました。これから他の話を見つつ、気長に待たせてもらいます(笑)。)


  3. greenback | URL | xB9R6Xc2

    Re: 『中の人などいない』 前編

    >憂鬱狼kenさん
    原作者さんからコメント頂けると光栄です。
    や、ほんと何回見返したか分かんない、
    見事なシーケンスだと思ってます。
    表情といい、滲み出るストーリー性といい。
    >今後の展開
    もともとkenさんの発言から膨らませたものなので、
    まあ何となくそういう感じになるかと。

    >ojiさん
    楽しんでいただいているようで何よりです。
    入れ替わり、好きですよー。
    いずれUPする所存ですので、
    そう言っていただけると幸いです。

  4. ゴゴT。 | URL | Xj9pzKFI

    Re: 『中の人などいない』 前編

    変身の描写も見事ですが、
    >やれ着ぐるみは時代遅れだの、かといってCGじゃ魂がこもらないだの
    に「ああー……」と深くうなずいてしまったりしましたw
    私は着ぐるみの鈍重な動作が重量感を出してて良いと思うんですがねぇ。獣化シーンのある映画でも特殊メイクによる生々しさが……ってこれはそういう話じゃないかw
    ともかく、変身が素晴らしいのはもちろん、変身以外の描写の細やかさにも脱帽です。
    日常を感じさせるからこそ、変身後の非日常とのギャップが強調されますね。
    私はもっぱらファンタジーだからといい加減な感じに逃げてしまいがちで、考えさせられます。

  5. greenback | URL | xB9R6Xc2

    Re: 『中の人などいない』 前編

    >ゴゴT。さん
    感想ありがとうございます。
    着ぐるみ、いいですよねえ。
    どうしてもある程度可愛く見えちゃうのが
    アレなのかもしれないけど、それもまた味ですし。
    日常……というか、変身までの過程が長いと、
    なんか自分を焦らしてるようで楽しいんですよねw

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