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『半身浴のススメ』 後編

2008年08月13日 02:32

というわけで後編。
あんまり素敵な絵なので、もっぺん貼っちゃおうかな。

edmolthanks


では、続きを。
前編未読の方は こちらへどうぞ。

×   ×   ×

腹筋をしてたんだ。
今日は50回もできたんだ。
お腹回りの肉が落ちて、すっきりしてきたところだったんだ。

それが――なに、この身体。

「樽のような」という比喩が、
こんなにぴったりと当てはまる体型があるだろうか。
赤みがかった色に変色したその部分はぶよぶよと膨れ上がり、
今なお少しずつその領域を広げている。

バスタブいっぱいに広がった胴体と対照的なのは、私の両脚だ。
そりゃ、モデルみたいに長かったとは言えないかもしれないけど、
人並みか、それよりもうちょっとの長さはあったはず。
それが今や、単なる“短足”のレベルをはるかに超えて短く
ずんぐりと縮こまり、膨れ上がった臀部に押し出される形で
水面から無様な姿を覗かせている。
あまりにシュールなこの現実を否定しようとして
身体をまさぐっていた手も、
しだいに“手”とは呼びがたい形に変わってくる。

そして――顔。

鏡を見なくても、本来視界に入るはずのない
巨大な鼻づらがはっきり見て取れてしまう。
触ってみれば、あまりにもあからさまな触覚。
まぎれもなくそれが自分の顔の一部であることを、
理解せざるを得ない。
ぐちゃぐちゃに混乱していく私の思考に、
ふわりと異物が舞い込んでくる。
それは鼻をかすめるシトラスの香り。
妹の香水の残り香にしては、あまりにも濃厚な――

「!?」

私の視界がはじめて、それをとらえる。
窓際で横倒しになっている、青いボトル。
そこから流れ出て、濃厚なシトラスの匂いを放ちながら
今なおバスタブのお湯に注がれ続けている、とろりとした液体。
まさかこれが……でも、いつの間に?
私が入った時はたしか、こんな物はなかったはず。
ううん、はっきりは分からないけど、
少なくとも倒れてはいなかった。
でもいま、こうして目の前に……
必死で記憶の糸をたどる。

――かたん。

そう、私は“その音”を聞いている。
あれはたしか……
――邪魔したね、ごゆっくり――
そんな、まさか。

考えを巡らせながら、私は倒れたボトルを立て直そうとする。
身体を変える、忌まわしい液体の流出を止めようとして。
だが、私の不器用な手が伸びるより早く、
それは別のしなやかな手に奪われる。

「あらら、気付いちゃったんだ、お姉ちゃん。
ダメだよ、あとちょっとで終わるんだから」

ああ――やはり、そうなのか。
洗い場に立っていたのは――妹だった。
屈託ない笑顔を浮かべて、その悪魔の液体を私の頭に、
胸に――まだかろうじて人間の面影を残す部位に
容赦なく注いでくる。

「悪いけど、トシオさんは渡さないから」

粘性を帯びた原液はとろりと私の肌に馴染み、
みるみる染み込んでいく。
そして――変身は加速する。
ダメだ、ダメだ、ダメだ。

「そりゃお姉ちゃんの方が性格はいいかもしんないし、
気立てだって料理の腕だっておっぱいの大きさだって
あたしより上だったかもしんないけど。
でも、それってみんな生まれつきのもんでしょ?
不公平じゃん」

そうだ、流さなきゃ。
洗い流さなきゃ。
こんなぶよぶよの塊、私じゃない!
私の身体であるはずがない!
シャワーで、きれいな冷たい水で、
この呪わしい液体を洗い流せばきっと――

「あたしが好きになる人、
みんなおねえちゃんとかぶっちゃうんだもん。
そしたら、まともに勝負してあたしが勝てるわけないじゃん。
そんなのってズルい。
もう――許せないんだ、あんたがあたしの姉であることが」

シャワーに伸ばした私の右手にも、粘液はしたたりおちる。
ぬるついて、こわばったようになって、
蛇口をひねるだけの動作がどうしてもできない。
急がなきゃ。
急いでシャワーを浴びないと。
ダメになっちゃう、カバになっちゃう、身体が――変わっちゃう!
ああ、だれか私に、はやく水を!
水水水みず水みずみずミズミズミズミズミズミズミズミズ――

妹が、笑っている。
腹を抱えて、涙を流して。
ひたすら滑稽なパントマイムを演じ続ける私を、嘲笑っている。

「……ああ、お腹いたいよ。
いいんだよ、そんなに必死にならなくても。
本当は分かってるんでしょ?
も う 手 遅 れ だ か ら 。
今さら洗い流したって、もう戻らないから」

それは、姉としての、女としての、人としての私への、死刑判決。
知らずしらず獣の声で絶叫していた私の目をまっすぐに見据えて、
彼女は笑顔で言い放つ。

「さよなら、お姉ちゃん☆」

×   ×   ×

というわけでEDMOLさんの可愛い絵に似つかわしくない
お約束の真っ黒ばなしをお届けしました。

ここまで読んでくださった方と、
何より素晴らしい記念絵をくださったEDMOLさんに、
改めて心よりお礼申しあげます。

本当にありがとうございましたm(_ _)m

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小幡 有樹子

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コメント

  1. | URL | -

    Re: 『半身浴のススメ』 後編

    トシオさんがTF好きでますます姉の方を好きになったりしたら面白いですねw

  2. ななお | URL | wLMIWoss

    Re: 『半身浴のススメ』 後編

    変化の過程を追った心理描写がかなり綿密に描かれていて思わず興奮を覚えました。
    人間の体は進化の過程で複雑な動作を可能としたわけですが、それを喪失したときの憐れさを表現するのが狂気じみてすらいて、素晴らしいです。
    学ぶことの多い前後編でした。

  3. greenback | URL | xB9R6Xc2

    Re: 『半身浴のススメ』 後編

    >名無しさん
    それは良いほのぼの。
    トシオさんの名前は某カバ好きさんから頂いたので
    そういう展開もなくはない……かな?

    >ななおさん
    光栄です。
    どうも私、”変身する女の子萌え”のみならず
    ”テンパってる女の子萌え”のケもあるようですw
    蛇口がひねれない所とか、書いてて楽しかったですね。

    そして、お待たせしてて申し訳ありませんでした。
    ななおさんの投稿作品、先ほど前編をうpしたので、
    ご確認くだされば幸いです。
    後編はあと24hほどお待ちください。

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